[R15] 女好きで天才の俺様、異世界を救う (JP) – 1章 1節 9話 地球の女神 建国(アン視点)

前書き

R15

第1節 地球の女神(第1章 勇者の村)

第 9 / 12 話

<遠目に見えてきた>

 ユウタ達は村から旅立ち少しすると隣の部族の見張りらしき男達が遠目に見えてきた。

「あの人達は隣の部族の見張りですから心配なさらないでくださいね」

 ユウタはアンに安心する様にと言った。

「全然心配しちゃうんだけど……!」

 かくしてユウタ達は見張り達に接近していった。

<接触した>

 そしてユウタ達は見張り達と接触した。

「東のシェイクか。我々に何の用だ」

 見張りの隊長から話し掛けられた。

「私達は大河の河口へと向かっています。ここを通してください」

(争うつもりはないんだ)

「なぜ大河へ向かうんだ?お前んとこは異郷の連中に隷属したはずだろう?」

(まぁ不思議に思ってしまうだろうね)

「これから数多の民が幸せに暮らせる国を造るからです。私は大河の河口の傍に国を造ります。そしてこれは私の意思であって村とは関係の無い事です。あなた方も来たい者は来ればいいですし私は全ての民を受け入れるつもりです。それに助けが欲しい時はいつでも助けを求めに来てください」

(ほ、本気か……?東のシェイクが冗談を言う訳が無いと思うのだが……いずれにせよ俺の手には余る)

<会ってくれないか>

「とりあえず我々の族長に会ってくれないか」

(構わないね)

「はい、ぜひ会わせてください」

 ちょ、ちょっと……!

「ユウタ、本当に大丈夫なんでしょうね?」

 アンはとても不安そうにユウタに耳打ちする様に尋ねた。

「大丈夫ですよ。彼らは信頼出来ますので心配なさらないでください」

 アンはユウタがそう言っても全く安心出来なかった。

「皆武器持ってるし物騒だし私達は男一人に女二人なんだからね!後 私は戦えないんだからね!」

 アンは再びユウタに耳打ちし心配を吐露した。

「大丈夫です。私に任せてください」

 ユウタは確かに本音を言っているし自信が有り気で不安な素振りが一切無かった。

「わ、分かったわよ……」

 アンはユウタのその言動を見ている内に何とかなる気がしてきた。

 まぁアンが本気を出せばその星の誰よりも強いのだが戦闘の心得は当然無く自分が女神な事をすっかり忘れており一人の乙女として恐怖していた。

 かくしてユウタ達は隣の部族の集落へと導かれていった。

<東のシェイクが来られました!>

 そしてユウタ達は隣の部族の集落に着き族長に会う為族長の家に入っていく事となった。

「族長!東のシェイクが来られました!」

 見張りの隊長が族長の家まで案内してくれて族長にそう呼び掛けた。

「おう!通せ!」

 族長が迎えてくれた。

(東のシェイクが何の用だ?)

「おー!東のシェイクに、未来のお嫁さんに、で、このお嬢さんは誰なんだ?」

(未来のお嫁さんだなんて!ふふふ♡)

(嫁と女を連れて来ている時点で戦争関連の交渉では無さそうだな)

<パートナーよ!>

「私はユウタのパートナーよ!」

*(このお馬鹿!こじれるから貴方は黙ってなさい!)*

(ちょ!ちょっと!パートナーって何よ!って、ユウタって何よ!)

「そうか!とりあえずさぁ座ってくれ!」

 敷物の上に座る様にと手で指し示された。

(様子からして緊急な要件でも無い様だが)

「それでは座らせていただきますね」

 ユウタ達は左からニン、ユウタ、アンの順で指し示された所に座った。

「東のシェイク、このお嬢さんはお前のパートナーと言っていたが、許嫁を差し置いてこのお嬢さんと結婚するのか?いや、もうしたのか?がっはっはっ!」

(東のシェイクは良い奴だが策士だ。侵略されるまでは実質部族連合の盟主だったしな。それにどうやったのかは分からねぇが、普通侵略されたら根こそぎ連れて行かれたり悲惨な事になるもんだが、東の部族は今でも今までの通りの暮らしを続けている。これも奴の交渉術が成せる業ってこった。しかしシェイクの狙いが全く読めねぇんだよなぁ)

「夫婦でも恋人でもありませんがパートナーと言えばそうです」

(シェイク!ほんといつの間にどうして知らない女とそんな関係になっちゃったのよ……!)

<何用だ?>

「そうかそうか!で、何用だ?」

(全く分からんなぁ)

「大河の河口まで移動していたところをせっかくだから族長に会ってみたらどうか?と提案されここまでやってきたという訳です」

(な~んだ、通過し様としていたんだな。それどころかうちが迷惑を掛けちまった様なもんか)

「そりゃすまねぇことしたな。ま、うちの若いのが気を利かせてくれたんだろう。俺としてもお前に会えて良かったしな」

(しかしこりゃ失態だな。武力を背景に無理矢理連れてきちまったもんだしな。まぁ東のシェイクなら事を収めてくれるだろうが、他の部族の長が相手なら協定違反だなんだと突かれかねない一件だ)

「こちらこそ大河の河口へ行く前に族長に会えて良かったです」

(ほんと助かるぜ東のシェイク)

(謝る必要は有りませんよ)

<何をするつもりなんだ?>

「しっかし大河の河口とやらで何をするつもりなんだ?」

(交渉か?婚前旅行じゃあるまいしな)

「国を造るつもりです」

(!?)

「本気か?」

(正気を失っている様には見えんが)

「本気です」

 私だって本気よ!

「がっはっはっはっ!交易の次は国か!お前はほんといっつも大きな事してんなぁ!」

(シェイクと女二人で国造りか?一見ぜってぇ無理に思えるがシェイクは今までに何度も不可能を可能にしてきている男だからなぁ。しかし許嫁の驚き様からしてシェイクとお嬢さんの秘密だった様だが、そんな大事な事を俺に話しちまうなんて俺の事を信じ過ぎじゃねぇか?)

(シェイクは本当に国を造るつもりなの!?)

 ニンはシェイク達が長老と話していた聴いていたので知っているのだがまだ実感が掴めていなかった。

「いえ、それ程でも」

 どうしてもっと自慢しないのよ!

<俺はそういうの好きだぜ>

「俺はそういうお前の謙虚な姿勢好きだぜ」

 血気盛んな戦士とは違い争わずに課題を解決していく頭脳派で人格者の東のシェイクを認めていた。

「ありがとうございます。私も族長さんくらい強かったら良かったのですが」

 この族長はこの辺りでも最強であり戦も常勝だった。

「戦なんて起こらねぇに越した事はねぇよ」

 この族長は戦で今までに大勢仲間を失っており敵を殺める事も戦をする事も嫌になっていた。

「そうですね。私もそう思いますよ」

 外交で解決するに越した事は有りませんからね。

<初耳だな>

「しっかしユウタっていったか?お前に名前があったなんて初耳だな。もっと前に教えてくれたって良かったのによ、水臭いぜ」

(名前は無いって聞いてたんだけどな)

「名前は実は先程こちらのアンから頂いたのです」

 ユウタはアンを手で指し示した。

「そうよ!私があげたのよ!」

 良い名前でしょ!

「そうか。良かったじゃねぇか、東のシェイク。いや、ユウタ」

(それにしても元気な女だな)

「はい。ありがとうございます」

(こう素直に感謝を言えるやつもそうはいねぇからな。若いのに大したもんだ)

 族長とは一族の長であり代表者の為その責任の重大さから保身に走ってしまい自分の非は一族の非であると飛躍し何が何でも非を認められない者が多く大きく見せ様と態度が偉そうになる者も多かった。

<呼んでほしいなぁ?>

「なぁユウタ、俺の事もカルムって呼んでほしいなぁ?」

(俺も族長呼びが浸透しちまってすっかり名前で呼んでくれる奴がいなくなっちまってたからなぁ)

「分かりました。カルムさん、国を造りましたら連絡を寄越しますし、来たくなればぜひ来てください。私は全ての民を受け入れるつもりです。それに助けが欲しい時はいつでも頼ってきてくださいね」

(ほう。ユウタは俺達を受け入れて助けられる自信まで有るって事か)

「そうか。だがユウタこそいつでも困ったら助けを求めに来いよ。その時は助けてやるし、特別に部族入りも認めてやるからな」

(ま、ユウタが俺達を頼る事は無いだろう。今まで一度もそんな事は無かったしな)

「はい、その時はよろしくお願いします」

(どうせすぐに王になるんだろうしその時は来ないだろうがな)

<どうして思ったんだ?>

「しっかしこれまたどうして国を造ろうだなんて思ったんだ?」

(部族連合とは訳がちげぇぞ)

「国を造るという案を出したのはこちらのアンなのです」

(やっぱりこの女がユウタを誑かしたのね!)

「そうかそうか!しっかし名前に国造り、真面目なユウタに入れ知恵して行動に移させたのが嬢ちゃんってすげぇ面白れぇな!まるで幸運の女神じゃねぇか!」

 そうよ!よくぞ言ってくれたわ!

「あったり前じゃないの!」

(面白れぇ!)

<もう行くんだろ?>

「ほら、飲め飲め!と言いてぇところだが、もう行くんだろ?」

(俺はお前の邪魔はしねぇぜ。何度も世話になったしこの部族の誇りに懸けてな)

「はい、行くつもりです」

(顔を見りゃ分かるぜ。とっくに覚悟は出来てんだな)

「方角はどっちだ?」

(大河の河口って言っていたが)

「あちらの方角です」

 ユウタはその方角へ人差し指で指し示した。

「ええ、あっちよ!」

 その方角で間違いないわ!

「ちなみにどんな国を造るんだ?」

(興味があるんだよなぁ、ユウタがどんな国を造るのか)

「職があり、住家があり、家族が持て、争いも無く、全ての国民が平等に幸せに暮らせる国です」

(そりゃ良いな。まるでおとぎ話だ)

<そうか、達者でな>

「そうか、達者でな。気を付けろよ。後うちの村ので良ければ食いもんとか好きなだけ持って行け!」

(もちろん気を付けますし、いいえ、迷惑も掛けません)

「はい、カルムさんこそ達者で。それと迷惑は掛けませんよ。それでは」

 そう言うとユウタは敷物から立ち上がりアンとニンもそれに続いた。

「そうよ!あんたこそお酒の飲み過ぎには注意よ!」

*(アン!それは余計な一言よ!)*

「迷惑なんかじゃねぇのによ!恩を売っておきたかった訳では無かったと言えば嘘になるが!しっかし嬢ちゃんもよく言うぜ!ま、嬢ちゃんがそう言うんなら飲み過ぎには気を付けてやらぁ!ガッハッハッ!」

(いつか俺達も迎え入れてくれよ、ユウタ)

 カルムは豪快に笑い大層目出度そうにお酒をぐびぐびと呷りながら去っていくユウタ達の背を見届けた。

<もう行くのか?>

 そしてユウタ達がカルムの家を出ると――。

「もう行くのか?」

 先程の顔見知りがカルムの家の壁に背を預ける様にして待っており声を掛けてきた。

「はい、またお会いしたらよろしくお願いしますね」

 ユウタ達はてきぱきと馬に乗った。

「達者でな、ユウタ」

 その顔見知りはエールを送ってくれたが面持ちはどこか浮かない様子だった。

「はい、アルウィさんこそ達者で。――それでは」

 ユウタはそう言うと手綱を引きユウタ達は馬を歩かせ始めた。

(俺はお前の事がさっぱり分からない。戦士なら例え全滅してでも最後まで戦うべきだと俺は思っていたのだが……。こういう戦士の生き様も有りなのかもしれないな。俺はやっとカルムの親父がお前の事を買っている訳が分かったかもしれない)

 アルウィは部族の連合で兵を集め異郷の連中と戦うつもりだったのだがその戦が回避され抗う事無く恭順する事を選択した東のシェイク達に不満を抱いていた。

 東のシェイクが高原の諸部族の代表として交易を仲介し戦争に発展させる事無くウィンウィンの関係を構築した事に一定の理解を示していたもののやはりその決断に戦士として不満を抱かざるを得なかったのだがシェイクの決意とその後ろ姿にある種の戦士を感じたのだった。

 かくしてユウタ達は再び大河の河口へと向けて馬を歩かせた。

<ここから先は危険だよ!>

 そしてユウタ達は川の民の縄張りに差し掛かった。

 そもそも川の民とは川の沿岸部を縄張りとしている部族の事で高原の部族とは連合も生活様式も文化も異なる。

「ここから先は危険だよ!本当に行くの?」

 ニンが不安そうに尋ねてきた。

「うん、もちろん行くよ。まぁ定期的に連絡は取り合っているし交易もしているから大丈夫さ」

 俺がそう言うとアンが口を開いた。

「ねぇ、何が危険なの?」

 何が危険なのか早く教えなさいよ!

「私は別に危険ではないと思っていますよ」

(アン様には安心していただきたいのですが)

「えー!だってユウタが間に入る前は川の民と高原の民は何度も争ってたのよ?」

(確かにぎすぎすとしていたのは間違いないが定期的な交流と物々交換を始めた事で不和は解消されたはずだ)

「もー!どうしてそんな危険な場所を通らないといけないのよ!」

 迂回しなさいよ!う・か・い!

「避けては通れないので仕方が有りません。縄張りというのは大雑把でほとんどは集落の無い大自然ですから」

 それはそうなんだけど!

<見つかりましたね>

「おや、見つかりましたね」

 遠くに人影が見えそれが向かってきた。

「どうするのよ ユウタ!」

 もう!逃げないなんてここで殺されちゃっても知らないわよ!

「大丈夫です。ご安心ください」

 だから全然安心出来ないんだって……!

 アンは武器を持っておらず戦闘になれば一巻の終わりとさえ思っていた。

 その一方でニンは今までこの世界で生きてきたのも有り覚悟が出来ていた。

 かくしてユウタ達は見張り役と接触するつもりで馬を歩かせ続けた。

<シェイクか?>

 そしてユウタ達は見張り役達と接触した。

*(アン、ずっと大人しくしているのですよ……!)

「お前は東の民の族長シェイクか?」

 見張りの隊長が見覚えのある顔に心当たりのある名を尋ねた。

(気づいてくれた様ですね。何度も顔を出していて良かったです)

「はい、そうですよ」

(なら敵意も無い様だしとりあえず族長に会わせておくか……)

「いつも羊肉や羊毛、羊乳のバターをありがとうございます!」

 あら?流れが変わってきたわね!

「いえいえ、こちらこそいつも川魚をありがとうございます」

 なんだかよく分からないけどユウタって顔が広いのね!

「でしたら我々の族長に一度会っていかれますか?」

 もう!またどこぞの族長とお話しするの!?このお話し文化は一体何なのよ!

「はい、お願いします」

 かくしてユウタ達は見張り役達に連れられ川の民の族長の家へと向かっていった。

<よくぞ来た>

 そしてユウタ達は族長の家に着いたのだが強面の男達が同席する形で族長と相対する事となった。

 ちなみにその族長はその村の長老でもあった。

 めちゃくちゃ怖いんですけど!

 アンは気圧され再び怯え始めてしまった。

「よくぞ来た、東のシェイクと同伴の女達よ」

(はて、東のシェイクが女を連れて何の用じゃ?)

「こちらこそ族長の家にお迎えいただきありがとうございます」

(謙虚な男じゃ)

「聞いたぞ、お主の部族は異族に恭順したそうじゃの」

 族長がそう言うと周囲の幹部達がくすくすとした。

 どの部族も長年自身の土地を縄張りとし生きてきておりその誇りもあって戦わずに恭順する事ははっきり言って「戦士の面汚し」だった。

 何よ!その言い方おかしいんじゃないの?もっと言葉を え・ら・び なさいよ!

*(堪えてください、アン……)*

<交易路が開かれました>

「はい、おかげで遠方との交易路が開かれました」

(ほう、前向きじゃのう。じゃがわしは実はお主の選択に賛同しておる。血を流さぬのは大事な事じゃ)

「戦争にはならなかったのかのう?」

 このおじさんさっきから嫌味ったらしくて感じが悪過ぎるわよ!

「なりませんでした。交渉が功を奏しましたね」

(ほう、交渉とは如何様なものだったのかのう)

「交渉とはいか様じゃったのかのう?」

 それを聞いて一体何になるのよ!

「侵略者の狙いは税の徴収と高原やその先との交易路を開拓する事でしたから納税と交易の約束をして方を付けました」

(なるほどのう、聡明な男じゃ)

<約束をしたのかのう?>

「で、どの様な納税の約束をしたのかのう?」

 もう!自分ばっかり質問してて ず・る・い わよ!

「私達の特産品は羊肉、洋毛、羊皮、羊乳品、絨毯などですから、それの一部を無償提供するといったかたちです」

(なるほどのう、そして無償提供された品を売るか自分達で使うという事かのう)

「わしの無粋な質問に真摯に答えてくれてありがとのう。これは決して嫌がらせではないのじゃ。わしはお主の人間性が変わってしもうたか見極めねばならなかったからのう。それにしてもじゃ、わしはお主の事を心配しておったのじゃ。わしらはお主のおかげで高原の民と争う事も無くなったしここらでは手に入らぬ物も手に入る様になったしのう。それ故ここに居る者は皆おぬしに感謝しておるのじゃ」

 だとしても嫌味が過ぎるわよ!

「気に掛けていただいてありがとうございました。いえいえ、こちらこそ川魚などありがとうございます」

(ほうほう、真に素晴らしい男じゃ)

<何用かのう?>

「ほっほっほ。でじゃ、お主はここへ何用かのう?」

 やっと本題ね!私待ちくたびれちゃってたわよ!

「国を造る為大河の河口へと移動していたところでした」

 ユウタがそう言うと幹部達が驚いた。

「国を造るだと!?何を戯けた事を!」

 このご時世で「国を造る」とは王を名乗り城下町として都市を形成し周辺一帯の諸部族も治めるという事であり高原と川辺の諸部族の戦いすらまだ決着が着いておらずその場にいた者達の多くが夢物語に聞こえた。

 はー!?何ですってーー!?

<ちょちょいのちょいよ!>

「何が戯けた事よ!私のユウタならそんな事ちょちょいのちょいよ!」

 アンは特に突っ掛かってきた川の部族の幹部の男と眼を飛ばし合った。

 そしてユウタはアンが自分の事を買ってくれているのは嬉しいが怖がりの割に喧嘩っ早いなぁとその狂犬っぷりに苦笑した。

「静まれ。――東のシェイクよ、こやつはお主の事をあまり知らんのじゃ。無礼を許しておくれ。どうかこの通りじゃ」

 川の民の族長が頭を下げて謝罪すると幹部達は驚きその幹部はぐぬぬと引き下がった。

 もっとちゃんと謝りなさいよ!

「いえ、いいのです。私がこれから行動で示していくだけの事ですから」

(ほっほっほ、実に結構。――東のシェイクなら何かやってくれそうじゃのう)

 川の部族の族長は長生きしておりそれだけ人生経験を積んでいて当然昔の暮らしの事も覚えており争いが減り流通が盛んになった今の暮らしへと導いてくれた東のシェイクに感謝していた。

<食われるぞ!>

「海に近付けば海に棲まう獣に食われるぞ!」

 ユウタ達の行動を懸念した一人の幹部が口を開いた。

 急に何なのよ!

 突然の一声にアンは驚いた。

「そうだ!わしらまで祟られたらどうしてくれる!」

 それに続いて他の者達までざわつき始めた。

 アンは女神である為その様な事が存在しないのは知っているのだがその時代の地上の民達にはその様な先進的な知識などもちろん無かった。

 そして彼らが恐れを抱いていたのは地震の後の津波や潮の満ち引き、海の流れの事でありそれらが海獣という恐怖の存在として伝わっていた。

 海に獣なんて居ないし祟りなんてものも無いわよ!

 まぁクジラとかいうでっかいのとかサメとかいうおっかないのは居るんだけど!

「祟られるのは困るのう。――東のシェイクよ、どうするのかのう?」

 正念場よ!ユウタ!

「海は漁と海上交易など一般的な利用に留めますから怒りは買いませんし、予定通り数多の民が幸せに暮らせる国を造るつもりです」

(私には女神が付いているのですからお墨付きも頂いているので大丈夫です)

 ユウタには女神のアンが付いており絶対に上手くいくという確信があった。

「ほうほう。よいじゃろう」

(やってみるがよいぞ)

<族長!>

「族長!」

 こいつやっぱり私のユウタの敵ね!

「静まれと言ったら静まらんか!」

 ついに族長が怒鳴ってしまった。

 なんか迫力があるわね!

 族長に怒鳴られてしまったその幹部は再び仕方無くぐぬぬと引き下がった。

「食べて行くかの?それと何か持って行きたい物はあるかの?」

 良いじゃない!今ちょうどお腹がぺこぺこなのよ!

 空腹のアンは族長の言葉に甘えたかった。

「いえ、お気遣いありがとうございます」

 えー!いっつも何で断っちゃうのよ!

<素晴らしいのう>

(ほっほっほ、つまり東のシェイクにはわしらを利用するという下心が無いという事じゃ。素晴らしいのう)

(族長の厚意をよくも無下にしやがって!)

 何よあいつ!ユウタの事凄く睨んじゃって!

 あんたが困った時私は絶対助けてやらないんだからね!

「よいぞ、わしらに気にせず行くがよい。国が出来たらまた会いに来るのじゃぞ、東のシェイク。いや、未来の王よ」

 最初からそう言っておきなさいよ!

「はい、行ってまいります。それじゃあ アン、ニン、行こうか」

 ユウタ達は立ち上がると族長の家を出て行った。

 そしてユウタ達が馬に乗る頃族長達も家から出てきて――。

「わしらとの取引もよろしくのう!」

 ――族長は言った。

(この辺りも益々発展する事になりそうじゃのう……いや、わしらが他所に取り込まれてしまう時が来たという事かのう)

 族長は時代の移り変わりを察していた。

 これからは部族同士が一致団結して国家に加わり一民として協力し合う時代なのだろう、と。

「はい、その時はよろしくお願いします。それでは」

 かくしてユウタ達は手綱を引くと馬を歩かせ川の民の村を出て行った。

<見えてきたわ!>

 そしてユウタ達はついに目的地に迫ってきた。

「見えてきたわ!目的地はあそこよ!」

 海が見え無人の開けた土地が見えてきた。

 やっとね!

「良い場所ですね。こんなに良い場所が手付かずなのは迷信のおかげですね」

 あら、迷信だって気づいてたの?

「ほんとの事だけど?」

 ユウタは未開人なんだから未開人っぽく怖がってなさいよ!

「それならどうしてアン様は怖がっていないのですか?」

 この勇者、私を見て真偽を確かめてきてるわね!

 なんか私が利用されてるみたいで腹が立つわ!

(アン様アン様って、シェイクに言わせちゃうこの女は一体何者なのよ!)

 ニンはアンが女神なのを知らずその正体が分からないままで訳が分からなかった。

「ふんだ!海獣が襲ってきても絶対にユウタは助けてやらないんだから!」

 アンは間違い無く驚かし甲斐が無かったりリアクションが薄かったり自分の主張を信じてもらえないと拗ねてしまうタイプだ。

 かくしてユウタ達は目的地を前に張り詰めていた気持ちが静まった。

<造るのよ!>

 そしてユウタ達は目的地に着き降り立った。

「ユウタ!ここに私達の王国を造るのよ!」

 アンは大手を広げ潮風を全身に受けながらそう言った。

「承知しました。それではここに王国の建国を宣言いたします」

 ユウタは王国の建国を宣言した。

 そうこなくっちゃ!まだ何にも無いけど!

 かくして建国を宣言したユウタ達は家造りなどに取り掛かり始めた。

<出来る限りの事を行ってください!>

 そしてその様子をモニターを通して見守っていた世界神達も口を開いた。

「アンは道案内以外何にもしていません!このままでは女神の名が廃ってしまいます!貴方達もアンに仕える天使達として民の誘導など出来る限りの事を行ってください!」

(勇者ばかり働かせていてはいけませんからね。女神も自分に出来る事はなるべくしなければならないのです。今後の為にも)

 ティアラは未来を見据えていた。

「はい、世界神様。ご解説と美味しいお菓子やお飲み物などありがとうございました」

 1号がティアラの方を向いて感謝しお辞儀すると――。

「ありがとうございました!」

 ――続けて他の天使達も感謝しお辞儀した。

「いえいえ、こちらこそ楽しい時間をありがとう♪」

 かくしてアンに仕える天使達も行動を開始していった。

(それにしてもとんとん拍子なのよね……彼は一体何者……)

 あまりのとんとん拍子っぷりに天使達は驚いていたがその場の誰よりもティアラが驚いていた。

(本当にアベルの様です……)

 ティアラにはユウタが交渉を難無くこなし率先して火を起こし何でもしてくれるその姿がいつかの最愛のアベルと重なって見えていた。

後書き

世界史では遊牧民が活躍し始めるのは紀元前8世紀頃からで、正確には遊牧騎馬民族の事ですが、アン達の時間はそこからさらに3200年も前の人口がもっと少ないメソポタミア文明の初期の話です。

ちなみに作中の異郷の者達は遊牧民の品々が欲しく素直に支配下に入ってくれるのであればそもそも戦争をする気など有りませんでした。

またユウタ達を侵略した異教の者達にも民族名が有るのですが差別の助長になってしまう事を懸念し公開はしない事とします。

ヒントはこの一帯の各文明の中間に位置しその中央を縄張りとしていた民族です。

本当は山岳の民と書きたかったのですがね。

しかしそれにしても仮に戦争になっていたとしてもその品々の作り手がいなくなってしまっては困るので抵抗勢力が消される程度でしたが、やはり血を一滴も流さない様にするには最初から恭順するしかありませんでした。

またこれはスピンオフにと思い作中には書きませんでしたがアンは移動の最中ずっと「暑い」だの「疲れた」だのとぼやき続けていました。

もっと言うとアンは食事をすれば元気になって煩くなり、空腹になるにつれてぼやき疲れて静かになるというのを繰り返していました。

そしてぼやいていたのは置いておいてあの我儘な女神が頑張ったという事だけでもティアラやアンに仕える天使達の中でアンの再評価路線に繋がり、またとんとん拍子の成果に加え地上に下り炎天下の中で勇者と旅を供にした女神というのも珍しく異例の高評価に繋がっていく事となります。

そもそも勇者候補に「どこどこへ来なさい」や「ああしなさい」と信託を下ろして目的地に来させたり指示通りに国を造らせる事も出来たし、天界ではそれが一般的なので自らも現地に赴き苦労をしたというのがプラス査定に繋がったという訳です。

ま、でも冷静に考えてみたらこの女神何もしてなくね?と評価は落ち着いていく事になるのですが(笑)