1/2. 俺の名前は「」
俺の名前はアレン・ノーラン。
そしてこの子の名前はシェリー・ノーラン。
俺の娘だ。
「パパ~!」
シェリーは大好きなアレンに抱き着いた。
「よしよし」
アレンはシェリーの頭を撫でた。
まぁ娘といっても血の繋がりは無い。
何故ならあの忌々しいハースト伯爵家に押し付けられた養子だからだ。
「もう貴方は用済みでしてよ。今すぐその子を連れて立ち去りなさい!」
ハースト伯爵令嬢のジュリアナは立ち去る様アレンに言い放った。
酷い。酷過ぎる。
俺はあの時ジュリアナに用済みだ、立ち去れと言われた。
ハースト家の目的は俺ではなく俺の実家の馬車職人クラン「ノーラン馬車工房」だったのだ。
「ノーラン馬車工房」は商用の馬車のみならず貴族や王室にも御用達実績が有る国内でも有数の馬車工房で従業員数300人を超えノーラン家は男爵位を賜っている。
「アレン!伯爵家から縁談の話がきているわよ!」
ある時帰宅すると母のレイチェルが嬉しそうに話し掛けてきた。
「どうだ?とりあえずハースト伯爵様のご令嬢に会ってみるか?」
父のトラヴィスも嬉しそうにしていたしまぁ会ってみるかと思って了承した。
「わたくしはハースト伯爵家から参りました、長女のジュリアナ・ハーストと申しますわ。どうぞお見知り置きを」
自己紹介の時にはジュリアナ嬢は容姿端麗で金髪ドリルヘアーと何とも美しく上品だと思ったものだ。
「お初にお目にかかります。私は馬車職人クランの後継ぎでアレン・ノーランと申します。こちらこそどうぞお見知り置きを」
アレンも自己紹介した。
「ふふ。存じておりますわ。それでは早速ですが工房を案内してくださる?」
ジュリアナはノーラン馬車の職人工房が見たかった。
「はい。どうぞ喜んで。ご案内いたします」
アレンはジュリアナに工房などを案内しようとした。
この時の俺はジュリアナを全く疑っていなかった。
むしろジュリアナに好意すら抱きつつあった。
2/2.「それでは『』にサインと魔力の押印を」
そしてこれは婚前契約書にサインした時の事だ。
「それでは婚前契約書にサインと魔力の押印をしていただきます」
ハースト伯爵家の執事セバスチャンが婚前契約を進めようとした。
「こちらがハースト伯爵家ジュリアナ様とノーラン男爵家アレン様の婚前契約書になります」
貴族院の契約官が婚前契約書を出した。
*貴族の結婚といった契約は重要な為貴族の契約事は貴族院の契約官が担っている。*
*また契約官が出した契約書には双方から出された婚前契約の条件が盛り込まれている。*
「さぁ、サインをどうぞ」
ハースト伯爵家の執事セバスチャンがサインを催促した。
「もちろんですわ」
ジュリアナは躊躇無くサインし魔力で押印もした。
これが婚前契約書か……初めて見た。
アレンは婚前契約書を手に取って読もうとした。
すると――。
「アレン様、婚前契約書にわたくし達が何か仕込んでいるとでもお思いで?」
――ジュリアナが俺を試す様な事を言ってきた。
「いえ、そういう訳ではありませんが契約書ですから目を通さない訳にはいかないかと」
一生に一度程の契約なのだから普通少しでも目を通したくなるものだろう。
「よくある事しか書いていませんわ。それともやはりわたくしの事を疑っていらっしゃるの?」
ジュリアナは疑われているのが不満だった。
「いえ、疑ってはいません。サインします」
俺は読まずにサインしてしまった。
もちろん魔力押印もした。
まぁ俺の裁量には限界が有る訳で実家の事は実家の事だしな。
何が起こっても俺は俺の責任の範囲内で全うしたら良いし実家の家業の事とかについては両親が許可するしないの判断をするだろうと思っていた。
それに読んだところで一目では分からない様な巧妙な仕掛けだったからどっちみちサインしてしまっていただろう。
「宜しいわ」
ジュリアナは大層満足そうにしていた。
そりゃ満足だろうな。
紙切れ一枚で国内有数の馬車工房が手に入るのだから。
-続きは執筆中-