[R15] 女性を愛する天才の俺様、異世界を救う (JP) – 1章 1節 12話 地球の女神 悲劇(アン視点)

前書き

ついに今節最終話です!

R15

第1節 地球の女神(第1章 勇者の村)

第 12 / 12 話

<おめでとうございます>

「アン様、いえ、天空神アン様、国教神化おめでとうございます」

 私に仕える天使1号が私がユウタの王国の国教の神になった事を祝ってくれたわ!

 アンはついにちゃんと自分の名が冠されたちゃんとした神として崇拝される様になる事が出来た。

 これはアンにとって念願の事でそもそも女神だと分かっても普通に接してくれているユウタやニンといった人がいる事自体が初めての事であり「妖術士」だの「魔物」だの、「悪霊」だの「邪神」だのといった様に信じてもらえなかった時と比べれば大きな進歩というかもはや奇跡だった。

「ありがとう!」

 ユウタが建国した王国は順調に発展しアンに言われるまでも無くユウタはアンを国教の神にしその国の民は天空神アンを崇める様になっていた。

 やっぱり私が皆から崇め奉られるのって最高ね!

 かくしてアンは自分が神として崇拝され乗りに乗っていた。

<いつにする?>

 そしてアンとユウタとニンの三人で結婚の時期について話し合った。

「で、結婚式はいつにする?」

 私は早く結婚したいの!でもまだ気恥ずかしいかも!

「あたしはいつでも大丈夫だよ」

(村の皆もまだかまだかってうるさいし)

(僕は……建国した国はまだ大きくなったとは言えないから「でっかい国を造ってほしい」と言っていたアンとの約束を果たしているとはまだ思えないし、だからこの段階でアンと結婚してしまうのは僕は申し訳無くて心苦し過ぎるし……結婚は一区切りつくまで先延ばししたいな……)

「もっと国が大きくなるまで先延ばししてみるかい?」

 まだ気恥ずかしいしそれが良いかも!

<そうしましょうよ!>

「良いわね!そうしましょうよ!」

(えー、いつまで後回しにするの?)

 ニンは結婚を後回しにしてしまっているユウタとアンに焦らされていた。

「そもそも2人が落ち着いて結婚出来るほど大きな国ってどれくらいの事を言ってるの?」

 言われてみればそこんところをちゃんと決めてなかったわね!

 1号によればもっと人口が増えて文明レベルが発展するまでは西方のエジプト文明、東方のインダス文明、北方のアナトリア文明に接していてちょうど真ん中にあるユウタの国に仲介役を任せれば世界は上手く回っていくらしいのよね。

 だから国境が出来て外交と交易が始まるまでかしら!

<でどうかしら?>

「あんね!西にエジプト、北にアナトリア、東にインダスっていう文明っていうか国っていうか民族圏っていうか、まぁそんなもんがあるの!で先ず国内を平定して、よそと国境線を確定して外交と交易を始めてからでどうかしら?」

*(あの子ったら……簡単そうに言っていますがそれがどれだけ困難な事なのか分かって言っているのかしら……)*

「分かった。アンが今言った通りで急ぐよ。ニンもそれで良いかい?」

(お世継ぎだってまだなのにそんなに後回しにしちゃってて暗殺されちゃったらどうするの……)

「うん……それで良いよ……」

 ニンは二人の意向に異を唱えられなかった。

 かくしてユウタ達の結婚は国内をまとめ外国との国交が開かれるまで先延ばしする事となった。

<やったわね!>

 そしてユウタはアンの勇者として力を遺憾無く発揮し瞬く間に国内の諸部族や諸集落や諸都市を平定し周辺諸国との外交や交易の条約が締結されそれを祝う三人だけの祝賀パーティーを開いた。

「やったわね!ユウタ!」

 さすが私のユウタよ!

「そうね。やっと結婚出来るね♡」

 ニンが黒笑を交えている様な笑みでそう言い放った。

「うん、そうだね」

 ニンとは幼馴染だし許嫁だから結婚するのは分かるけど、女神様とまで結婚してしまったら罰が当たったりしてしまわないだろうか……。

「そ、そうね!」

 け、け、結婚式……!

 わ、わ、私どうしたらいいのかしら!

 ママと天使達に来てもらったら良いのかしら!?

*(そうね、私は絶対行くわよ。――そうだ!練習と言ってユウタと歩いてみようかしら♡それが一番の楽しみよ♡)*

<ここまで通しても良いかしら?>

「あ、そうそう!私達を祝いたいっておじさんが来てるのよ!ここまで通しても良いかしら?お願い!」

(お、おじさん?う、うん……)

「良いよ。アンがそこまで言うなら」

 やったわ!

「おじさん!入ってきて良いって!」

 すると衛兵達に止められていたおじさんが入ってきた。

<どーもどーも!>

「どーもどーも!国王陛下に未来の王妃の方々!わたくしめは商人でございます!」

(う、胡散臭い……。本当に商人なんだろうか……?)

(アンったらいつの間にこんな胡散臭い人と顔見知りになってたのよ!)

「おじさん!言ってた結婚のお祝いの品持ってきてくれたの?」

 宝石から何から何まで揃えてくれるって本当に役に立つ商人ね!

「ええ、もちろんですとも!とりあえずこちらの果実酒をどうぞ!」

 あらまぁ果実酒!

(うわぁ……毒を盛る定番のやつでしょこれ……)

(こんなの私 絶対飲みたくないわ……!)

「おじさん、何の果実?」

 きっとデーツよね?

「もちろんナツメヤシの果実、デーツでございます!」

 定番のやつよ!

 やったわ!

「私が大好きな果実酒よ!」

 この商人は本当に気が利くわ!

<今後とも良しなに!>

「ええ、存じ上げておりますとも!この度は祝賀パーティーですからユウタ国王陛下ともうじきその王妃になられるアン様とニン様にこちらを無償でご提供させていただきます!今後とも良しなに!」

 商人はそう言って果実酒をアンに手渡そうとしていた。

(うわぁ……呑気にこれを飲んだら一晩でこの王国の王家が滅亡してしまいかねないぞ)

(どうしようユウタ……)

 ニンは不安そうにユウタを見た。

(大丈夫だよ、ニン)

 ユウタはニンにアイコンタクトを送った。

「ありがとう!」

 私は果実酒を受け取ったわ!

「どうぞお二方もお飲みください。王国の繁栄と交易とお三方の結婚に乾杯です!あと福も来たるそうですよ!」

(すっごく胡散臭いなぁ……暗殺の類なのだろうと思う)

<皆で飲みましょうよ!>

「そうよ!皆で飲みましょうよ!これからの私達の未来に乾杯よ!それに運も付くなんて最高ね!」

(私は嫌よ……アンもなに簡単に丸め込まれちゃってるのよ!)

(このままではまずいよ。もし毒が入っていてそれをアンやニンが飲んでしまったら大変な事になってしまうから。こういう時はたとえ失礼だと思われても勇気を出してはっきりと言うべきだよね)

「ねぇ、アン。もしその果実酒に毒が入っていたらどうするのかい?」

 ユウタは商人に失礼だと思われる覚悟で勇気を出してはっきりと言った。

「そ、そうよ!もし毒が入っていたらどうするの?」

 ニンもユウタが口を開いたのを皮切りに口を開いた。

「ユウタもニンもこのおじさんを疑ってるの?こんなに優しそうで気が利くおじさんなのに?」

(優しそうで気が利くからって毒を盛らないとは限らないよ……むしろだからこそ胡散臭いんじゃないのかい?)

(アンって本当に女神なの!?アンが疑っていないって事はこの胡散臭いおじさんは本当に信じて大丈夫な人だっていうの?)

 アンはおじさんを手で指し示してどうして!?とユウタ達に疑問を投げ掛けたがユウタ達はそれが安心安全な理由にはならないと思っていた。

 そして商人らしき人物が笑顔で手を揉んでいるがユウタとニンはそれは作り笑顔なのだろうと思っていた。

<僕達は軽はずみな事をしてはいけないんだ>

「アン、この際だからはっきり言うけれど、食べ物は信用のある人からしか貰ってはダメだよ。僕達はこの王国を預かる身として軽はずみな事をしてはいけないんだ」

(誰かを信じてあげる事は大事な事だけれど、それと同時に疑いも持たなければいけないんだよ……)

「そうよ!食べ物に毒を入れて毒殺するのなんてよく聞く話じゃないの!」

(さそりの毒で暗殺なんてよく有る話なのよ!)

「人を疑ってばかりいたらろくな大人にならないわよ?それに私は毒が入っていたって平気だし!」

 何よ!ユウタもニンも揃いも揃って!

「そりゃアンなら平気かもしれないけど僕達は……!」

(おじさんがいる手前アンが女神な事は口に出せないよ……!)

「そうよ!私達じゃ死んじゃうわよ!」

 もう!あったまきた!

<いいから見てなさい!>

「いいから見てなさい!この わ・た・し が直々に毒見してあげるんだから!」

 私が毒見してあげるわよ!

「ダメだ、アン!」

 ユウタはアンの毒見を制止しようとした。

「そうよ!本当に毒が入っていたらどうするのよ!」

 ユウタとニンはアンを必死に制止しようとしたが、アンはユウタ達の言う事に耳を傾けずにその果実酒を木製のコップに注ぎ飲んでいった。

「ごくごくごく……ぷはー!全然大丈夫じゃない!」

 アンは一杯を飲み干した。

 ちょっと苦いけどこの時代の果実酒ならこんなもんでしょ!

 ま、毒の味なんて私にはさっぱり分からないんだけど!

「アン……」

 ユウタは心配そうにアンを見つめ様子を伺っていた。

「本当に大丈夫なの?」

 ニンも心配そうにアンを見つめていた。

<大丈夫よ!>

「大丈夫よ!だからユウタもニンも飲みなさいよ!ほら、私がコップに注いであげるわ!それとも私の言う事が信じられないの?私を信じてくれないの?」

 アンはユウタとニンの分をコップに注ぎ二人の信頼を確かめるが如く誘った。

「アンの事は信じているけれど……」

(ここまで言われたら断り辛い……飲まなければならないならせめて僕が先に飲んでニンを守りたい……)

「私だってアンの事は信じているけど……」

(そんな怪しいの私は飲めないわよ……!)

「ユウタもニンもお願いよ!」

 アンは目をうるうるとさせユウタとニンに畳み掛けた。

<先に飲むよ>

「分かった。でも僕が先に飲むよ。ニンは僕が大丈夫と言ったら飲んでね」

 ユウタはアンのために果実酒を飲む事を覚悟した。

「分かったけど……」

 ニンはユウタの提案を呑んだ。

「そうこなくっちゃ!ぐいっと飲み干すのよ!グイっと!」

 アンは呑気にユウタにその果実酒を飲ませようとしていた。

「さすがにぐいっとは飲み干せないけど……飲んでみるよ」

 ユウタはコップを手に取るとニンにアイコンタクトしその果実酒を少し飲んでみた。

 そして……。

「うっ……!」

 ユウタはコップをその場に落とし手で喉を抑え泡と血反吐を吐きながら床にばたん!と倒れてしまった。

<何とかして!>

「ユウタ!アン何とかして!」

 ニンは必死にユウタを介抱しようとするが、具体的にどうしたらいいのか分からない。

 わ、わ、私!ど、ど、ど、どうしよう!

 アンは想定外の出来事に頭が真っ白になってしまった。

「女神様……約束も果たせずすみませんでした……」

 ユウタは最後の力を振り絞ってそう言うと息を引き取った。

 その様子を見た商人は作り笑顔のままその場を後にした。

「ユウタ!お願いだから起きてよ!ユウタ!」

 ニンは号泣しながらユウタの亡骸を必死に揺すり抱き締めた。

 かくしてユウタは毒殺され絶好調だったアンは急転直下で悲劇に直面した。

<どうしてくれるのよ!>

 そしてアンはニンに問い詰められた。

「アン!どうしてくれるのよ!ユウタを返してよ!」

 アンは放心状態になってしまっておりニンに目も合わせられず正気を失ってしまっていた。

「また近い内に会わせてあげるわよ……」

 輪廻転生するはずよ……。

「それっていつなのよ!」

 50年後か100年後か200年後か……。

「分からないけど……近い内よ……」

 するとニンがアンの胸倉を掴んだ。

<何とかしてよ!>

「どうして貴方はいっつもそうやって適当なのよ!ユウタが死んだのは貴方のせいなのよ!ユウタを返してよ!女神だったら何とかしてよ!」

 ニンは号泣しながらアンの胸倉をぐらんぐらんとさせ責任を追及した。

「……」

 アンはろくに言葉を返す事も出来ずにいた。

「何とか言いなさいよ!」

 ニンはアンの胸倉を掴んでいくら問い掛けてもアンは終始視線を背けたまま無言になってしまっていた。

 アンは虚無感と自責の念から何も言えなくなってしまっていたのだ。

 そしてアンが口を開いた。

「また貴方を絶対にユウタに会わせてあげるわ……でもそれがいつになるか分からないから、貴方を天使にしてあげる……汝よ我が天使になれ、メタモルフォーシス……貴方はもう天使よ……だから寿命の事は心配しないで……それじゃ私は今からママに会ってくるわ……」

 アンはニンを天使にする魔法を掛けた。

「ちょっと待ちなさい!」

 かくしてアンはニンの制止も聞かずにティアラに会いにテレポートしていった。

<あ、アン!>

 そしてアンはティアラがいる場所へとテレポートした。

 するとそこは天使達が情報収集など慌てて右往左往しておりティアラがその指揮を執っていた。

「あ、アン!」

 ティアラは放心状態のアンに気付き声を掛けた。

「ママ……」

 アンは無気力に返事した。

「とりあえずここは騒々しいから静かに話せる私の部屋に行きましょう」

 ママの部屋……。

「うん……」

(アンったら本当に意気消沈してしまっているわね)

<それじゃ、テレポート!>

「それじゃ、テレポート!」

 ティアラがそう言うとアンはティアラと共にティアラの部屋へとテレポートされた。

「それじゃ、貴方はここに座って」

 アンはティアラに応接椅子に座る様にと促された。

「うん……」

 アンは促されるがままに素直に座った。

<話して>

「それじゃ、私はここに座って、と。――要件を聞くわよ。話して」

 ティアラも執務椅子に座りアンにそう尋ねた。

「ママ……」

(アンったら本当に意気消沈しているわね)

「な~に?アン」

(先ずはアンの口からアンの思いを聞かなければ)

「私の勇者が……ユウタが死んじゃった……」

(やっぱりその事ね!)

「ええ、知っているわよ。先を越されてしまって悔しいわ!」

(わたくしが手に入れるはずだったのに!)

「え!?」

(ママ、今何て?)

「あっ!いえ、こっちの話よ!ふふふふふ……まぁ、貴方の勇者が死んでしまった事は知っているわ」

 ママ……。

<私のお願いはただそれだけ……>

「なら返して……私のユウタを返して……私のお願いはただそれだけ……」

(わたくしも出来ればそうしてあげたいのだけど……)

「それが難しいのよ。貴方、魔法を全く使わなかったでしょう?だからユウタさんの勇者としての評価は神に頼らずクエストを達成したって事でうなぎ上りでね。魔法もダンジョンも無い、魔王もいないこの世界では宝の持ち腐れなんじゃないか?って。でも私は魔法もダンジョンも無くて魔王も居らず個体差が無い世界だからこそ難しくて勇者が必要なのって力説したのだけれど、天界では意見が真っ二つに分かれてしまってね……」

 アンは意気消沈し放心状態だったのでティアラの言っている事が全く頭に入ってきていなかった。

「ユウタを返して……」

(それが出来ないのよ)

<これは普通の暗殺ではないの>

「アン、そもそもこれは普通の暗殺ではないの。魂の誘拐なのよ」

 え!?

「魂の誘拐……?」

 どういう事……?

「貴方達がお祝いムードだった時、突然アクセスが遮断されて警告しようにも貴方達の場所へテレポートが出来なくなってしまったのよ。それで事態に対処出来なかったの」

 何よそれ……。

「とりあえずユウタを返してよ……」

(貴方って子は!)

「だ・か・ら!これは通常の暗殺ではなくて天界が絡んでいる暗殺って事!つまり誘拐なの!通常のプロセスで輪廻転生させてあげられる話じゃないの!」

 何でよ……。

「何でこんな事になっちゃったのよ……」

(わたくしもユウタさんの勇者としての評価が下がってしまってでも天使の護衛を付けるべきだったと後悔しているわ……)

「とりあえずわたくしが事に当たってみているから、貴方は自分の星でしばらく大人しく休んでいなさい」

 ……。

「うん……分かった……」

 かくしてアンは自分の星の亜空間の家へとテレポートで帰還した。

<アン様……>

 そして帰還したアンは1号に迎えられた。

「アン様……」

 1号が心配そうに駆け寄って来たが――

「ただいま……」

 ――かくしてアンはそれだけ言うと自室に引き篭もってしまった。

<励ましてもらえるんじゃないかしら……>

 そして自室に引き篭もってしまったアンはある事を思い付いた。

 そうよ、パーティーで知り合った人達なら私の事を励ましてもらえるんじゃないかしら……。

 そう思ったアンは天界で誰かのパーティーに呼ばれてもいないのに参加したのだが――

*「あ、あの子。この前の科学の世界のパーティーの……」*

*「聞いたか?勇者に毒入りの果実酒を飲ませて死なせちまったんだと」*

*「あら、酷く無能な女神だったのね」*

*「あの時はあんなに自慢していたのに、ほんと嫌な女」*

*「勇者の暗殺って、魂の誘拐なんじゃないのか?」*

*「きっとそうよ。良い気味じゃないの」*

 ――誰かに励ましてもらうどころか無数の蔑む視線に晒され、陰口を叩かれて生きる気力を失ってしまいそうになる程に意気消沈した。

 友達が出来たと思っていたのに……本当の友達ではなかったのね……。

 かくしてアンは絶望しパーティー会場を後にした。

<どうして私だけこんな目に……>

 そして意気消沈し行く当ても無く歩き彷徨っていたアンは公園の噴水の傍のベンチに座った。

 どうして私だけこんな目に……。

 私だってこんなつもりじゃなかったのに……。

 一人で両手で涙を拭きながら泣いた。

 そしてティアラはベンチで一人泣いていたアンを見つけた。

「アン!」

 アンを見つけたティアラはアンの名前を呼んだ。

「ママ……」

 アンはティアラの声がする方を見た。

「アンったら、どうして一人でこんな所に来たの!1号ちゃんからアン様の姿見えませんって連絡がきて急いで探したのよ!」

(ほんと貴方って子は何を考えているのよ!)

「……パーティーに参加したら……ぐすん……皆に……ぐすん……励ましてもらえるんじゃないかって……ぐすん……」

(このお馬鹿……)

「あんたって子は……本当にお馬鹿なんだから……!――またいつか会えるわよ。わたくしも頑張って探すから」

 ティアラも涙を流しながらアンの事を優しく抱き締めた。

「うん……」

 アンも泣きながらも意気消沈している自分の体に力を振り絞り優しくティアラを抱き締めた。

 かくしてアンはユウタを失い悲劇に見舞われた。

<魂の行方>

 そしてユウタの魂の行方は――。

「最近巷で話題の勇者の魂を闇オークションで手に入れやんした!これでやんす!どぞ!」

 天使が魂が入った金色の正方形の容器を持っている状態で上司である女神に報告し手渡しで上納しようとした。

「お~、これが例の勇者かい……で、これだけかい?」

 二本角が生えている女神は容器を受け取ると喜びながらその魂を見つめ部下に気になった事を尋ねた。

 また女神は魂を集めており今回の収穫が一つだけだったのが不満だった。

「へい、これだけでやんす」

 部下の天使は一つしか上納出来ず申し訳無さそうに返事した。

 通常 勇者の魂を誘拐した場合パートナーとは離れ離れになってしまう事になるのだが、それは可哀想というのと、勇者に実力を遺憾無く発揮してもらうためにも、また値段を釣り上げるためにもヒロインも暗殺し魂を抱き合わせて取引する事が多いのだ。

<いくら使ったんだい?>

「そうかい……ま、その方が都合がいいか。で、いくら使ったんだい?」

 通常 勇者の取引は公正に行われるべきなのだが、無理矢理手に入れようとすればそれは裏ルートで入手するという事であり、値が張るのはこの女神も分かっていた。

「それが……科学オール3学者3でやんした」

 天界は幾多の世界を跨いでいるため共通の通貨という物が無くそれ故魂やアーティファクト資源などといった物の物々交換が主流だった。

 また善良な魂ほど人気があり、不良な魂ほど不人気なのだが、不良な魂でも熾烈な競争を望んだり治安を悪化させ高ランクの勇者を呼び込むための土壌作りを目的として買われる事があった。

 そして闇オークションでの科学オール1学者1とは一般オークションの10倍で科学の世界の天然資源の一式の10倍と学者の魂10万人分の事で、天然資源としては石油が1000億バレル、石炭が1000億トンといったものであり、科学オール3学者3とは科学の世界の天然資源の一式の30倍と学者の魂30万人分の事で、天然資源としては石油が3000億バレル、石炭が3000億トンといったものだった。

*世界最大のアメリカの油田の石油埋蔵量が2640億バレルで、同じく世界最大のアメリカの石炭埋蔵量が2489億4100万トン*

 また学者の魂については文明を発展させたくない神々が売っており文明を発展させたい神々が買っていた。

 そしてSSSランク以上の勇者に対して科学オール3学者3という落札価格は破格の安さだった。

 しかしベアトリスは価格の事も受け取った勇者のランクの事もよく分かっていなかったし闇オークションでは凄い事があったのだが部下も部下でベアトリスに迷惑を掛けまいと説明はいつも通り最低限に留めてしまっていた。

 ちなみにSSSランクの勇者とはSSランクの魔王はおろかSSSランクの邪神も倒せる程強い勇者の事でその勇者の魂が手に入れば自分の星は安泰になるしレンタル業で長期的に大金を稼ぐ事も可能だった。

<これからどうなるか楽しみだね~>

「ふ~ん、そうかい。ま、これからどうなるか楽しみだね~」

 ベアトリスは天使が自分の指示通りに動いてくれて良かったと思うと容器を目線の高さまで持ち上げその中を覗き込んだ。

(私には分かるよ、この魂は上物なんてもんじゃない。最高級だよ。こんな掘り出し物に巡り合えるとはねぇ)

 ベアトリスはその勇者の魂の輝きを見つめ今までに無い上質さを感じていた。

 かくしてユウタの魂は魔王の世界の女神の手に渡ったのだった。

後書き

主人公の魂は魔王の世界の女神の手に渡ってしまいました。

まぁ勇者の魂が欲しい神がいれば魔王の魂が欲しい神もいるんです。

もちろん勇者の魂でも魔族の肉体を与えて適切に導けば魔王にもなれます。

つまり導き方次第でSSランクの勇者でもSSランクの魔王になれるんです。

しかし文明を発展させたくないとは理解し難いと思いますが例えば中世が好きだとか古代が好きだとか神によってそういう好みの違いもあります。

まぁ地上に住む人からすればそういう神の個人的な趣味に付き合わされるのは大変な事だとは思いますが(汗)

それにしても第1節をお読みいただきありがとうございました。

今節では第1話を基準にその前後の主人公以外の視点や何故そうなったのかといった解説を入れましたがそういうストーリーの土台や根拠まできちんと描写するのが私のスタイルです。

当初は第1話(第1節第1話)第2話(第2節第1話)第3話(第3節第1話)という様にてきぱきと書いていたのですがそれでは何だか薄い様な気がしてきちんと何故そうなったのかを描写しようと思い現在のスタイルに切り替えました。

つまり従来の1話が1節になるという12話や25話という節レベルのスケールに膨らんだという感じです。

そして私から言える事は……とりあえず聖女が登場する第5節の第1話まで頑張ってくださいという事です!(笑)