[R15] 女性を愛する天才の俺様、異世界を救う (JP) – 1章 1節 6話 地球の女神 始まり(アン視点)

前書き

R15

第1節 地球の女神(第1章 勇者の村)

第 6 / 12 話

<出会い>

 現地にテレポートした女神は勇者候補の青年と出会った。

「わ、わぁっ!て、敵襲!?」

 突然光に包まれた存在が目の前に現れた為座っていた青年は驚き後ろに倒れてしまった。

 その様子に青年が手綱を握っている馬もひひひーん!と驚き前足を上げてしまうが馬は獣の本能で聖なる力を感じ取っており恐怖心は無く女神に驚いた訳ではなかった。

「私はこの星の女神よ!」

 女神は自信満々に自己紹介した。

「め、女神様ぁっ!?は、初めまして女神様……私はこの高原で『東の村』の族長をしています」

 青年は呆気に取られてしまったが自分だけ座っているのは失礼かと思い立つと自己紹介した。

「そう!で、あんた早速だけど私の勇者になりなさい!」

 もちろん拒否権は無いわよ!

「ぼ、僕が女神様の勇者にっ!?」

(勇者とは一体……)

「後 私は敵じゃないわよ!」

 この美しく気高い私を敵と見間違えるなんて!とんだ無礼な未開人ね!

 女神は自分が敵と見間違われて不満なのだがテレポートの際に必要以上に魔力を込め凄まじく光を放っておりそれが目くらましを伴った敵襲と思われても仕方が無かった。

<勇者とは>

「すみませんでした……あの、女神様。『勇者』とは一体何ですか?」

 あー、先ずはそこからね!

 にしてもこれが本当に高ランクの勇者なの……?

 女神は訝しむように青年を全方位から見た。

「勇者っていうのはね!この世界の為に私の言う事を何でも聞いて私に尽くす存在の事よ!当然私の為に死ねるわ!」

*(あの子は本当におバカなんだから……勇者にそんな事までする義務が有る訳が無いでしょう……それにそんな事を言ったら勇者になってくれる訳が……)*

「分かりました。私で良ければ女神様の勇者にならせてください」

*(えーーー!?)*

「あんたよく言ったわ!大分見どころが有るわね!」

 即答だし何より全肯定君っぽいのが気に入ったわ!

 私の機嫌を損ねないのってすっごく大事な事なんだから!

 私は 褒・め・ら・れ て 甘・や・か・さ・れ て伸びるタイプなんだから!

*(貴方って子は……)*

<ここで見張っていないと>

「しかし私はずっとここで見張っていないといけないのです」

 全肯定君と思ってたらいきなり私の事否定する気!?

 私の勇者になるの?ならないの?どっちなの!

「どうしてよ!てかこんな所で何を見張ってるのよ!」

 こんな何にも無い所で何をしてるのよ!!!

「何って……来訪者や敵が来ないか見張っているのです」

 な~んだ!そんな事!

「な~んだ!その程度の事だったのね!そんなの他の人に任せてあんたは私ととっとと行くわよ!」

 女神は青年の腕を掴もうとしたが避けられてしまった。

「だ、駄目ですよ!私が持ち場を離れた後にもし本当に敵が来てしまったら村の皆が大変なことになってしまいます……!」

 一体どういう事なのよ!

<足が疲れてきちゃった!>

「もー!ずっと立ってたから足が疲れてきちゃった!」

 女神は敷物の上に勝手に座った。

 それは体育座りだった。

「ちょっ……!」

 青年は女神の行動に驚いてしまった。

「ほら!あんたも一緒に座るわよ!」

 女神は敷物の片側に手でとんとんし青年も座るようにと促した。

「は、はい……」

 女神の申し出を断れない青年は女神の指示通りに女神の隣に女神と同じ体育座りで座り隣り合わせとなった。

「すっごく狭いわね……」

(女神様がやって来ると分かっていたらもう一枚用意していました……いや、出来ないか……)

<すみません……>

「すみません……」

 青年は素直に女神に謝った。

「別にあんたのせいじゃないでしょ」

 ……。

「はい……」

 この子が勇者ねぇ……。

 しかも暑っついわぁああ~~!

「しかもすっごく暑っついわね~!」

 女神は手うちわで自分の顔から首にかけてを扇いだ。

「すみません……」

 青年はまたつい謝ってしまった。

「別にこれもあんたのせいじゃないでしょ」

 ……。

「はい……」

 はぁ……こんな面倒な仕事、1号に任せるんだったわ……。

 女神は柄にも無く自ら現地へ赴いた事を早くも後悔していた。

<理由を聞かせなさいよ>

「で、どうしてあんたがこんな事になってるのか理由を聞かせなさいよ」

 女神は青年に事情を尋ねた。

「元々この辺りは遊牧民の部族の縄張りで彼らと私達は同盟を組んでいたのでここに見張りを置く必要すら無かったのですが、私達は異邦人達に侵略されてしまい異邦人達は彼らと敵対しているのでこの辺りに私達の村から見張りを出すようにと言われていて、その役目を私が買って出ているという訳です」

 へ~、そうだったの。知らなかったわ。

「へ~、そう。でもお父さんとお母さんはいるんでしょ?兄弟は?」

 さすがに両親はいるでしょ!だって両親がいなきゃ産まれてこれないもの!

「両親は死にました……兄弟もいません……」

 そう……なんか悪い事聞いちゃったわね……。

<褒めてあげましょうか!>

 こういう時は褒めてあげましょうか!

「ねぇ、それお洒落ね!流行ってるの?最近よく見かける気がするのだけど!」

 女神は青年を見てユニークなものを見つけお洒落だと褒めてあげた。

 というのもアンは家でごろごろしながら暇潰しで動物と子供達を目当てにページをめくるようにモニターで地上を覗いておりそれに見覚えがあったのだ。

「これですか……?」

 青年は女神に見せてお尋ねのものを確認しようとした。

「そうよ!それ以外に何が有るのよ!」

<こ、これは……>

(こ、これは……)

「これは……奴隷の証です……」

*(はぁ……あの子はどうして悪い方、悪い方へと行ってしまうのでしょうか……うちの娘がお馬鹿でごめんなさい……)*

 もうあったまきた!

「どうして私があんたに気を遣ってあんたの機嫌を取ろうとしなくちゃいけないのよ!私はそういうの苦手なのよ!」

 女神は自分の選択が悉く上手くいかず不機嫌になってしまった。

「すみません……」

(女神様に気を遣わせてしまってすみません……)

<悪い癖よ!>

「あんたねー。すぐに謝るのは悪い癖よ!」

 すぐに謝るなんて考えられないわ!

「すみません……」

 その姿勢が良くないわね!

「謝る前に戦って自分の権利を主張するべきよ!あわ良くば相手に自分の非を認めさせるの!」

(はぁ……)

「女神様、私達は敵わない相手に立ち向かってしまうと滅ぼされてしまうのですよ。ですから謝って隷属するしかないのです」

 この時代では立ち向かう=戦争でありその選択を選んだ人々は多くの血を流していた。

 また敗北=奴隷であったが立ち向かっても敵わない相手には恭順した方が多くの血を流さずに済むので賢い選択だった。

<立ち向かってほしいの!>

「あんたねー……私は立ち向かってほしいの!でっかい国を造ってほしいのよ!」

 私の勇者のあんたがびびってたら他に誰がやってくれるってのよ!

(……)

「分かりました。女神様がそれをお望みでしたらそのように頑張らせていただきます」

 女神に全肯定の青年は女神の要望をすんなり聞き入れた。

 これが本物の勇者って事なのかしら!

 物分かりが良いわ~!

 女神も順調な手応えに満足していた。

「それでこそ私の勇者よ!」

 とりあえず勇者のやる気を出させるのには成功したわね!

「ありがとうございます」

<やる気を出させて!>

 じゃ、今度は私の番よ!

「じゃ、今度はあんたが私の事を褒めてやる気を出させて!」

(この人は大変元気で注文も多いな……)

 青年は全肯定なので当然女神の指示通りにするがもちろん感情を持つ人間なので思うところが無い訳ではなかった。

*(どこかで聞いた事が有る台詞ですね……)*

「女神様はお元気な方ですね」

 そう!私はいつも元気なのよ!!

「そう!私はいつも元気なのよ!じゃあほら、その調子でもっとちょうだい!」

(はい……)

「分かりました。――女神様は可愛くて美人ですね」

 きゃー!私が可愛くて美人だなんて~!

「そうよ!わ・た・し は か・わ・い・く て び・じ・ん なんだから!あんた見る目が有るわよ!」

 女神は気を良くし「あんた見る目が有るわよ!」と言いながら青年の背中を後ろから強めにばん!ばん!と叩いた。

(い、痛いです……)

<命を懸けて>

「あんた、命を懸けてこの か・わ・い く美しき め・が・み・さ・ま の わ・た・し の事を守りなさいよ?」

 私の命令が絶対だし誰よりも私の命が最優先なんだから!

「はい、私が女神様を私の命に代えてでもお守りします」

 きゃ~!

 なんだか嬉しいわ!これが「男」って感じがするわね!

 しかも愛着も湧いてきたしせっかくだから名前で呼びたいわね!!!

*(女神様……)*

 1号達も自分の名前が番号なのには少なからず不満があった。

<名前は?>

「ところであんた名前は?」

 名前は何かしら?

「名前は無いです……すみません……」

(すみません……)

 は~!?名前が無いって一体どういう事なのよ!

「何でよ!」

 名前が無いなんておかしいじゃない!まぁ私も名前は無いんだけど!

「両親が名前を授けてくれる前に死んでしまったからですが、村の皆は私が勇敢な事をしていると思ってくれているようで「私に村に伝わる英雄の戦士の名前を」と考えてくれていたようなのですが、私達は戦争に負けてしまったので支配者の気分を害し反逆の疑いを掛けられないようにする為英雄の名前を使う事が出来ず私は無名のままだったという訳です。ですが皆は私の事を『シェイク』と役職名で呼んでくれていますので」

 あまりの長台詞に1号達が相手ならいつもの様に話の途中で遮り「あ~もう!要するに何なのよ!かいつまんで言いなさいよ!」などと言っていたところなのだが今回は頑張って最後まで聞いた。

 というのも他人の秘密はゴシップ感が有りわくわく出来たのだ。

 なるほどね~。

<「シェイク」って何?>

 でも、ん?

「『シェイク』って何?」

(それは……)

「一族の長、村の長の事です」

 長……あ!一番偉い人の事ね!

「やるじゃん!」

 それでこそ私の勇者よ!

 女神はまた青年の背中をばん!ばん!と叩いた。

「ど、どうも……」

 実際長老制の村社会で若くして長を務めているのはよっぽどの事だった。

<授けてあげるわ!>

「じゃあ可愛く美しき女神であるこの わ・た・し が わ・た・し の栄え有る勇者になったあんたに特別に名前を授けてあげるわ!」

 感謝しなさい!

*(いよいよね……でも心配だわ……この子達の名前が1号2号なのを思えば……)

 科学の世界神は周囲の女神に仕える天使達の事を見て「勇者1号」というように勇者に与えられる名前に不安を覚えた。

(は、はい……)

「ありがとうございます」

 そうね~。

 この子の名前は何が良いかしら。

 女神は青年の顔を見て左右もじっくり見たりして時間を使って考えた。

 そもそも男って不思議な生き物ね~。片方が男性染色体になるだけで男が産まれてくるなんて。

 私の事を命懸けで守ってくれるって言ってくれたのは嬉しかったしこれが男って感じがするわ。

 そもそも性染色体の形は私が今考案中のアルファベットで言えばXなのよね。

 女性染色体の隣に男性染色体があるのが男性でどちらも形はXだけど、大きいのは女性染色体の方だしまぁXの隣にくるのはYだし、このすわり順なんか正にそうだし女性と男性、私と勇者って意味でXとYでいいかしら。

 それじゃあ男にちなんでYと名付けてあげてもいいかしら。

 私の中でYは「ユウタ」だから私の勇者の名前は「ユウタ」で決まりね!

<あんたの名前は>

「あたし決めたわ!あんたの名前はたった今から『ユウタ』よ!」

 完璧でしょ!

 あたしってネーミングセンスあるわ!

 思慮深い人は優柔不断なものだが女神は良くも悪くもその反対の即決主義であり勇猛果敢だった。

*(ふぅ……変な名前を与えなくて良かったです……)*

「ありがとうございます。しかし僭越ながらその名前の由来は何ですか?」

 まぁ気になるわよね!

 いいわ!教えてあげる!

「貴方は男よね?」

(もちろんそうですが……)

「はい」

(名前の由来が想像も付かないです……)

「そんな男が産まれてくるには性染色体に男性染色体がくっついてないといけないのよ!」

 女神は未開人にミクロの世界の生物学を解説してしまっていた。

<性染色体とは>

「性染色体とは何ですか?」

 もー!これだから未開人は!

「性別を決める染色体よ!で、染色体っていうのはね、こんな形してて体の中にいっぱい有るの!それもあちこちに!」

 女神は両手の指を使って染色体の形を表現し青年の体中を指差して染色体のありかを教えた。

*(ここだけ聞けばあの子は優秀な女神に思えるのだけど……)*

「えー!?本当ですか!?み、見えませんが……!」

 青年は驚いていた。

「ユウタね、目で見える訳が無いでしょ!超小っちゃいんだから!」

 今試しに名前を使ってみたけど良い感じね!

 それにしてもぷーくすくす!

 なんか未開人って何にも知らない小動物みたいで可愛いわね!

「すみません……」

 ユウタは女神に謝った。

「別にいいのよ!女神なら知ってて当然の事だけど!ユウタ達はまだ未開なんだから!」

 女神はユウタを励ますつもりでユウタの背中をまた強めにばん!ばん!と叩いた。

(ほ、本当に痛いのですが……)

<考えてちょうだいよ……>

「ところでね……私も名前が無いの……だから今度はユウタが私の名前を考えてちょうだいよ……」

 世界神は星神達に自立心を持ってほしいという思いで名前を授けてはいなかった。

 というのも星神は自分の名前を経験を通して勇者から貰うなり自分で名付けるなりして獲得し成長していくのがこの世界の神々の習慣だった。

(女神様の名前を私が考えるのですか……非常に畏れ多いのですが……やるしかないでしょう)

「村の者達は私がもし女の子だったら『アン』と名付けるつもりだったのだそうです。そして『アン』とは村に代々伝わる英雄の妻の名前で村では代々勇敢な者の娘に名付けられる名前なのですがいかがですか?」

(女神様に付けるお名前がこんなものしか思いつかずすみません……)

 「アン」ね~。

 2文字なのが原始人の名前っぽくて嫌なんだけど考えてみたら意外と悪くないのよね~。

 むしろ着飾ってなくて良いかも!それに英雄の妻の名前だなんて結構栄誉な事じゃない!

 女神は「英雄」などテンションが上がる言葉に弱かった。

 でもやっぱり未開人っぽいし……でも違和感は無い感じだし……どうしようかしら!

<どう思う?>

「ねぇ、ユウタは私の名前が『アン』になったらどう思う?」

(似合っているかどうか、違和感が無いかどうかを尋ねてきているのだろうか)

「似合っていますよ。それに違和感もありませんし可愛いです」

 でしょでしょ~~~?

「私決めたわ!私の名前はたった今から『アン』よ!ユウタもこれからは私の事を『アン様』と呼びなさい!」

(は、はい……)

「アン様、おめでとうございます」

 えっへん!

 女神は上機嫌で自信満々に胸を張っていた。

<ご命令ください>

「それではアン様、私にどこで大きな国を造ってほしいのかご命令ください」

(先祖代々守り続けてきたこの土地を離れる覚悟は出来ています)

「いいわ!その調子よ!ユウタも知ってると思うけどこの近くに大きな川が有るでしょ?」

(有りますけど、そこは川の民の縄張りですよ……)

「有りますね」

 知ってるみたいね!

「その大河の河口付近に大きな国を造ってほしいのよ!」

(河口付近……)

「その川と海が繋がる場所に国を造ってほしいという事ですか?」

 ユウタもイメージは出来ていた。

「そうよ!物分かりが良い子は私大好き!」

(そ、そうですか……)

<王にするのですか?>

「分かりました。それで、国を造ったら女神アン様を王にするのですか?」

 違うわよ!

「ユウタが王になるの!で、私を女神として崇めなさい!」

 私が王だなんてめんどくさい事する訳無いでしょ!

 私は家で美味しい物を食べてごろごろしてたいの!

「承知しました。女神アン様の為、私が女神アン様の勇者として数多の民が幸せに暮らせる国をかの地に造ってみせます」

 そうよ!そうこなくっちゃ!

「ちゃっちゃと造るのよ!頑張ってちょうだい!」

 1週間もあれば造れるかしら?

「はい、頑張ります」

 かくして女神の勇者になった青年は女神から「ユウタ」という名前を授かり青年は女神に「アン」という名前を授け仲良くなった二人は建国に向けて動き始めた。

後書き

いよいよ建国へ向けて、というところですね。

ちなみにアンは国を1日か半日、もっと言えば1時間、出来れば数分で作ろうとしていたので1週間に切り替えたのは本人の成長の表れだったりします。

要するにアンは「遠慮」を初めて使ったんです。

それでも「1週間」というのは鬼スケジュールだと思いますが(汗)

ちなみに「別にあんたのせいじゃないでしょ」の辺りからお姉ちゃん50%友達50%モードに入り優しさを発揮していたので遠慮が発揮されたのも必然でした。

まぁアンが立場の違いを感じてサポートモードに入ったのは青年を未開人だと認識した辺りからで、奴隷だと知って可哀想と思ったのと同じく名前が無かった事に共感し名前を贈り合って友情というか絆が芽生えたのが一番大きいですね。