[R15] 女性を愛する天才の俺様、異世界を救う (JP) – 1章 1節 8話 地球の女神 旅立ち(アン視点)

前書き

R15

第1節 地球の女神(第1章 勇者の村)

第 8 / 12 話

<握手よ!>

「じゃ、よろしくの握手よ!ほら!」

 アンはユウタと握手しようと手を差し出した。

「はい」

 ユウタも素直にアンの握手に応じ手を合わせお互いに握手した。

「頼んだわよ!国は1週間以内に造りなさい!」

*(本当にアンったら……1週間以内に国を造れる訳が無いでしょう!)*

「承知しました」

*(……!勇者さんもアンの無茶な命令をそう易々と引き受けてしまっては駄目よ……)*

<で、これからどうするの?>

「で、これからどうするの?」

 私は次に何をしたら良いのかさっぱり分かってないんだから!頼んだわよ!

「先ず、部外者に聴かれてしまってはまずい為私が人前で女神アン様の事を『アン様』と呼ぶ事をご了承ください」

*(そうね、先ずはそこからです。この勇者は実に堅実ね)*

「まぁ良いわよ!」

 気に入らないけど、確かにそれもそうな気もするし、私くらい器の大きい女神ならそのくらいの事簡単に呑んであげられるわよ!

*(アンを観ていると昔のわたくしと重なってしまってとっても恥ずかしいわ……)*

「当然ご自分の正体も秘密にし誰にも話さないでくださいね?」

 分かってるわよそんな事!

「分かってるわよ!私の事馬鹿にしないで!」

*(いえ、アンならついかっとなって我を忘れてしまった際に自分を大きく見せようとして口を滑らしかねないでしょう……釘を打っておいて正解ですよ、勇者さん)*

<よろしいでしょうか?>

「ありがとうございます。それでは次にアン様が私に国を造ってほしい大河の河口の場所の事ですが、私とアン様で齟齬が生じているかもしれませんので、今の内に確認させていただきたいのですが、その方角を指で指し示していただいてもよろしいでしょうか?」

 まぁそれもそうよね~。

「それならあっちの方角よ!」

 アンが向きを変えて指で方角を指し示すとユウタもその視線と指の先を見つめた。

(やはり女神アン様が国を造ってほしい場所は私が聞いた事が有る川か……行けるな)

<承知しました>

「承知しました。それでは次にする事ですが、一旦村に帰って私が行く場所を皆に伝えてもよろしいでしょうか?遠出する為の食糧や物資も必要ですから」

 えー!?早速現地に行くんじゃなかったのー!?

*(堪えてください、アン……旅に出る前の挨拶くらいさせてあげなければ……それに旅に出るのはとても危険な事なのですよ……ですから入念な準備が必要なのです……)*

 昔のティアラは最初の帰宅すら許さなかったし準備不足で旅の最中に苦労した事も有りアンに同じ轍を踏んでほしくなかった。

<声を掛けておきたいのです>

「国民を獲得する為にも積極的に声を掛けておきたいのです」

*(あの人もそんな事を言っていたわね……)*

 んーーーーもう!分かったわよ!

「分かったわよ!でもちゃっちゃと済ませてちょうだい!」

(女神アン様が認めてくれて良かった)

「それでは行きましょうか。――アン様、私の手を取ってください」

 ユウタはそう言って馬に乗りそう言ってアンに手を差し伸べた。

<重なって見えた>

*(あ……)*

 ティアラはアンが自分の過去と重なって見えてしまった。

「行くのは構わないけど自分で馬に乗るのは嫌よ!」

*(あちゃ~……)*

 アンも昔のティアラと同様に我儘を発動してしまった。

「それではアン様を馬に乗せる為私が女神様を横抱きさせていただいてもよろしいでしょうか?」

*(それはお姫様抱っこではありませんか!わたくしが馬に乗る度にアベルにさせていた事でしたね……)*

 ちなみに現在のティアラの場合でもお姫様抱っこしてもらう為に結局自分で乗るのを拒否してしまうのだった。

<変な真似したら承知しないわよ!>

「そういう事なら私に触れても良いけど変な真似したら承知しないわよ!」

 私に触れずに私を馬に乗せる方法は無いのかしら?

*(そんな都合の良い方法が有る訳が無いでしょう……とは言っても無い訳ではありません。魔法の有る世界ではお馬さんと意思疎通出来れば目の前で座って乗りやすくしていただけますしこの科学の世界でも女神であればテレパシーで意思疎通出来ると思うのですが……アンは自分が女神としてそういう事が出来るという事自体も忘れてしまっているか知らないのかもしれません……)*

 実際今のアンにはその発想が一切無かったが、女神が力を発揮しない方が勇者が女神の力に頼っていなかったという意味で功績が上がる為、むしろその方が都合が良かった。

*(でもいいのです。その方が彼に勇者としての箔が付きますからね)*

<どうか私にお任せください>

「はい、大丈夫ですよ。どうか私にお任せください――どうぞ」

 ユウタは優しくアンをお姫様抱っこすると、そのまま腕力でアンを持ち上げそう言って馬に乗せた。

 そしてお姫様抱っこされたアンは初めてキュンとした。

「わあ!私、馬に乗るのって初めて!」

 あと何なのこの感じ!

*(良かったわね、アン)*

<前に詰めてください>

「前に詰めてください」

 前に移動すれば良いって事ね!?

「分かったわ!」

 アンはユウタに言われた通り前に移動した。

「両手は自分がバランスを取りやすいところに置いてくださいね」

 バランスって……。

「こうかしら?」

 アンは自分の前に両手を置いてみた。

<それでは行きましょうか>

「はい、それで大丈夫です。それでは行きましょうか」

 ユウタはそう言うとアンの後ろで馬に乗り手綱を握った。

 アンは今後ろからユウタにやや包まれているような感じになっていた。

「ちょ、ちょっと!なんだか恥ずかしいんだけど!」

 アンは恥ずかしがっていた。

「少なくとも私が付いている限り馬から落ちたりしませんからご安心ください。そしてその道中乗馬やその眺めをお楽しみください」

*(良いわ~羨ましい)*

「私が落ちないようにするのは当たり前の事なのよ!それに楽しむ余裕なんてないわよ!」

 当たり前の事を言わないでちょうだい!それに私は初心者なんだからね!

<それでは行きますよ>

「それでは行きますよ」

 ユウタはそう言うと馬を歩かせ始めた。

「ちょ、ちょっと……!私初めてなのよ!」

 アンは馬が歩き始めたので戸惑ってしまった。

「ですから私が付いておりますのでご安心ください」

 もう!

「でも私初心者だから不安なんだって!」

 かくしてアンの心配が堂々巡りになりながらもユウタとアンはユウタの村へと向けて移動し始めた。

<おかえり!>

 そしてユウタとアンは村に着いた。

「シェイク!おかえり!」

 ユウタの幼馴染が帰ってきたユウタに声を掛けた。

 ユウタの幼馴染はユウタが帰ってくるのを待っていたのだ。

(って、あの娘は誰!?)

 アンは心の中でざわめきを覚えた。

「あの子は誰?ってユウタ名前有るじゃない!」

*(アン……もう忘れてしまったのですか……それにしても不穏の予感がしますね……アンと仲良くしてくれると良いのですが……)*

 アンはシェイクが何かをもう忘れていた。

<長としての肩書きですよ>

「シェイクは村の長としての肩書きですよ」

 あ~。

 なんかそんな話したわね!

「そうだったわね!もちろん私は覚えてたわよ!念の為よ!念の為!」

*(あの子ったら、素直になれないんだから……)*

 ティアラはアンの言動にまた呆れてしまった。

<幼馴染です>

「承知しました。――ただいま、ニン。――アン様、彼女の名前は『ニン』で私の幼馴染です」

 ユウタは村の中へと馬を歩ませていった。

 幼馴染だったのね!もう!ビックリしちゃったじゃないの!!

「そ、そう!!」

 なら良いんだけど!

<前に乗せている女は誰?>

「ねぇシェイク、前に乗せている女は誰?」

(ニンが不思議に思うのも無理は無いね)

「今私が仕えている女主人だよ。じゃ、僕達はこれから色々としなくちゃいけない事が有るから」

 ユウタはそう言って自身の家へと向かっていった。

(シェイクが仕えてる女主人!?僕達はこれから色々としなくちゃいけない事が有る!?)

 ニンは突然の時代に激しく困惑した。

「ちょ!ちょっと!!――シェイク!!!」

 かくしてユウタはアンと共に自身の家へと向かい旅立つ為の食料などを支度した。

<私から大切な話が有ります>

 そしてユウタとアンは長老の家へと赴いた。

「長老、シェイクです。私から大切な話が有ります」

 ユウタはアンを連れて長老の家へと入っていった。

「ほっほ、シェイクか。そちらに座って。さて、どんな話かな」

 長老が迎え入れてくれたので、ユウタとアンは心置きなく手で指し示された敷物の上に座った。

「長老、私達はこれより大河の河口へ向かい数多の民が幸せに暮らせる国を造ります。方角はあちらです。来たい者は来ればよいし入国したい者は誰でも受け入れますし、助けが欲しい時はいつでも頼ってきてください」

 ユウタは前置きも無くいきなり長老に話した。

「ふむ。おぬしはいつも単刀直入に突拍子も無い事を申すから刺激的で楽しいのう。そうか。シェイクよ、お主は生まれ育った土地を捨て旅立ち国を造る覚悟が出来ておるのか?」

 長老は意外にも前向きに話を進めてくれた。

「はい、この世界の為に」

 ユウタは真剣な面持ちでそう断言した。

<私の方が驚いちゃうんだけど!>

「って!ちょっと!こうとんとんと話が進むと聞いてる私の方が驚いちゃうんだけど!おじさん!普通こういう時は誤るな!とか言って止めたりするもんなんじゃないの?」

 アンは居ても立っても居られず水を差すようにユウタと長老の会話に割って入ってしまった。

*(アン!せっかく話がまとまりつつありましたのに……!)*

 アンとユウタを見守っていたティアラも1号達もざわついた。

「ほっほっほ、このお嬢さんが申す事も一理有る。しかしわしはこの若者を信じておるのだ。この若者が村の皆の為に外の者達とも話を付け、周辺部族とも折衝し、盗賊も倒し、飢饉まで凌いでくれたのじゃからな。村の皆を説得するにはしばらく時間が掛かるじゃろうが、挑戦したいならワシはその背中を押してあげたいのじゃ」

 長老は長い人生経験から達観していた。

 言い伝えだが昔から「外の世界が見たい」だのと旅立つ若者は時々いたのだ。

 しかし「国を造りたい」は前代未聞だった。

 あ!このおじさん!!見覚えが有ると思ったら毎日熱心に祈ってくる人だ!

 長老はアンが知っている人で、長老もアンに毎日祈りを捧げていた事もあり、アンがただならぬ神聖な存在で有る事を薄々は感じていた。

「そ、そう!なら良いんだけど!」

 アンも長老の言い分には納得してしまった。

<思う存分やってみるがよい>

「ほっほっほ、それにしてもこの世界の為とは大きく出たものじゃ。よいぞ、思う存分やってみるがよい。駄目じゃったらいつでも帰ってきたらよい。そして上手くいったら連絡を寄越すのじゃぞ?」

(長老が許可してくれて良かった)

「分かりました。――直ちに行ってまいります。――それでは行こう、アン」

 ユウタはそう言うとアンを連れて長老の家を出ようとした。

(ニンも連れて行ってあげてほしいのじゃがな。――必ずや王になるのじゃぞ、シェイク)

「ユウタ!理解の有る長老で良かったわね!!」

(私もそう思います、アン様)

「はい、アン様のおっしゃる通りです」

 ユウタがアンを連れて長老の家を出ると、そこにはニンがいた。

<私も連れてって!>

「シェイク!聞いたわ!私も連れてって!」

 ニンはユウタ達と長老の会話を盗み聞きしていた。

「駄目よ!どうして私以外の女を連れて行かなくちゃいけないのよ!」

 アンはとても嫌がっていた。

「貴方ほんとどこから来た女なのよ!あたしの許嫁を勝手に連れて行かれたら困るんだけど!」

 幼馴染も負けじとアンに食って掛かっていた。

「アン様、道中の安全の為にも国民の数を増やす為にも、人手は大いに越した事は無いと思うのです。ですから彼女も一緒に連れて行っても良いですか?」

*(アン、勇者さんの言葉に耳を傾けてください……わたくしの直感がそれが最善だと告げているのです)*

<私の敬虔なる信徒としてなら>

「ん~~~!分かったわよ!私の敬虔なる信徒としてなら同行を許すわ!」

 アンは条件付きでユウタの幼馴染の同行を許可した。

(敬虔なる信徒!?)

 幼馴染のニンは不思議そうにしておりユウタはニンも共に行くのならニンにアンの正体がバレるのも時間の問題だと達観しあえて隠すような補足説明はしなかった。

 そして幼馴染は不思議に思いながらも愛馬に乗り随行してくれた。

 かくしてユウタとアンとニンは十分に準備し挨拶回りをした後馬に乗り村から旅立った。

後書き

村は既に侵略者の傘下に入っておりそれなりの年貢を要求されていますが主人公による交渉によりそれだけで済んでいます。

そして運び屋を兼ねた行商人が往復で稼ごうとして色々と持ってきてくれているので村の暮らしは従来よりも向上しています。

また商隊の傭兵達が周辺の盗賊達を撃退してくれているので街道も安全になり定期的な交易により飢餓の心配まで無くなっています。

ちなみに長老はニンが盗み聞きしている事に気付いており「ニンも連れていってあげたらどうじゃ?」と自分が言う必要は無いかと思い言いませんでした。

そしてちなみにこの村は高原の遊牧民の村です。

また後に明らかになりますがどんな手段を使ってでもアベルとこういったスローライフがしたい女神がいます。